rakra109号の特集「うるわし、和菓子」で紹介している「薄紅」は、紅玉を使った青森らしいお菓子。作っているのは、青森市で大正7年に創業した「おきな屋」。薄紅をはじめ数多くのリンゴ菓子を扱い、県内外にファンが多い老舗菓子店です。
創業から2010年頃まで営業していた、移転前の青森市のまちなか・新町商店街の店舗には、2階に喫茶店がありました。薄紅を考案した三代目・齊藤己千郎さん(故人)が開いたもので、のちに「寸草庵」という名前になり、うどん・そばや、あんみつなどの甘味が人気を博します。昭和52年(1977)には、青森市郊外のショッピングモール「サンロード青森」に寸草庵二号店をオープン。この店は、現在も営業を続ける唯一の寸草庵となっています。
買い物客が行き交うショッピングモールの中に、まるで隠れ家のように在る同店には、長年通う常連さんが多く訪れます。喫茶店時代から何十年と喫茶部門を担当していたスタッフのレシピを今も大切に、変わらぬ味を提供しているため、ファンが離れないようです。
食事メニューで特に人気があるのが「五目うどん」。新潟から取り寄せる生うどんや、名取(宮城県)の鰹節を使っているそう。「菓子作りと同様、喫茶でも使う食材には昔からこだわっているんです」と、五代目で現社長の阿部淳之輔さんが教えてくれました。
甘味メニューの人気は「抹茶クリームあんみつ」と「抹茶パフェ」。常連さんからは「マック」「マッパ」と呼ばれているという、寸草庵の二大甘味です。
今回は、私が学生の時からずっと好きな「抹茶クリームあんみつ」を注文。白玉がトッピングされているのですが、これがまた絶品なのです。
聞けば、青森県産米を使った自家製の白玉粉を、毎朝練って丸めているとのこと。
好みでプラスできるりんごシロップも格別で、「おきな屋」らしさあふれる要素が、この一皿には詰まっています。
「田舎びた中に洒落を感じるものがいいのだ」と、常々話していたという三代目が求めたイメージを伝承したおきな屋の茶房は、青森らしくて、青森唯一。この店のうどんと甘味は、青森市民の密かな名物ともいえる存在なのかもしれません。
寸草庵
青森県青森市緑3丁目9-2 サンロード青森1F
(ライター: 井藤雪香)