rakra115号、発売になりました!

今回の特集は「美しい 鮨(すし)」。
(きっと)誰もが「あ〜お寿司食べたい〜〜〜」となる、華やかで美味しそうな誌面となっております。ぜひご覧ください!

そのrakraでの取材で出会った、印象深いエピソード。
誌面では伝えきれなかったので、こちらで紹介したいと思います。

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秋田県秋田市の「鮨 小じま」で取材したときのこと。
店主の小島さんは大の日本酒好き。この秋から、念願だったという「亀の尾」で握ったお寿司を提供しています。

「亀の尾で握ったお寿司、気になる!(=食べてみたい!)」と、取材をさせていただいたその日。亀の尾の生産者である農業法人「a.base(エーベース)」の代表・森谷さんと、一緒に働いている安田さんがお客さんとしていらっしゃいました。

手前が森谷さん、奥が安田さん。誌面にもご登場いただきました。ありがとうございました!

亀の尾は、明治〜昭和初期にかけ全国各地で作付けされていたコメ品種。食味がよく酒米としても飯米としても人気でした。80年代に新潟の酒蔵が亀の尾を復活させてお酒を造り、そのエピソードがモデルになった漫画がヒットしたことから人気が再燃。今では色々な蔵が亀の尾でお酒を造っています。
しかし、背が高く倒れやすいなど栽培に手間がかかる亀の尾は、酒米として栽培・買い取られることが多く「食べるお米」としてはほとんど流通していません。

エントランスに飾られた、亀の尾の稲穂の飾り。

そんな亀の尾と、「いつか亀の尾で握った寿司を店で出したい」と思っていた小島さんとの縁を繋いでくれたのが、横手の酒蔵で長く杜氏をしていた、森谷さんのお父さん(以下、森谷杜氏)です。

コメ農家でもあり「半径5km以内のコメと水で酒を醸す」という信条を持っていた森谷杜氏。小島さんはそんな杜氏を尊敬し、横手市浅舞地区にある杜氏の田んぼを訪ねたり、店でコラボイベントを開催するなど交流がありました。

しかし、2019年に森谷杜氏が急逝。
跡を継ぐかたちで息子である森谷さんが就農し、2020年に「a.base」を設立しますが、亀の尾については「醸す人」がいなくなったことで行き場を無くし、栽培を断念せざるを得ない状況になりました。

杜氏が愛情込めて育てていた「浅舞産の亀の尾」を守りたい。
そんな想いを抱いていた小島さんは、森谷さんに声をかけ「浅舞に残したい亀の尾プロジェクト」を立ち上げます。

浅舞で亀の尾を栽培し続けるためには、売り先が必要。
そこで、小島さんが買い取ってシャリに使うことを前提に作付けを開始。2年目となる2022年秋から、シャリに使うコメの全量を亀の尾に切り替えました。

2022年産の亀の尾。粒が小さくて、かわいい。

そして、rakraが取材にお邪魔した11月某日は
生産者の森谷さんと安田さんが「はじめて亀の尾の寿司を味わう日」でもあったんです。

いよいよ、亀の尾のお寿司が目の前に…。
ゆっくり口に運び、味わうふたり。

「うん、美味しい」
と、感慨深げにつぶやいた森谷さん。
「食感があっさりしていて、最初はネタの風味を邪魔しないけど、あとから米の旨味が来て調和する。すごく合います」

森谷さんのしみじみとした表情、ぐっと来ました。

安田さんも「1年の苦労が報われるよう」と、笑顔。
そんな2人のコメントを聞いた小島さんも嬉しそう。

プロジェクトは今後も継続し「浅舞の亀の尾でまたお酒を造ること」を目標に取り組んでいくそう。
近い将来、浅舞産亀の尾で醸したお酒を飲みながら、同じ亀の尾で握ったお寿司を堪能…ということが実現するかも!

「生産者と鮨職人、二人三脚でこのプロジェクトと亀の尾を育てていきたい」と話してくれた小島さん。
私も「食べる人(将来は飲む人も)」として応援していきたい!と思いました。

(編集部:鈴木いづみ 写真:高橋希)