発売中のraka116号「うれしたのし贈り物」特集で取材した「及源鋳造」。
岩手県奥州市水沢にある「OIGEN ファクトリーショップ」には、誌面では紹介しきれなかった数々の南部鉄器製品が並んでいます。
中でも気になったのが「ネイキッドフィニッシュ」シリーズ。
南部鉄器の多くは、錆びにくくするため、漆や南部鉄器用のカシュー塗料等による塗装が施されていますが、このシリーズは、一切塗装がありません。仕上げに900度という高温で焼くことで酸化皮膜を作り、錆びにくい鉄に変化させています。
2006年に日本国内で製造特許を取得した、及源鋳造独自の技術です。
「海外では、このネイキッドフィニッシュシリーズを主に販売しています。鉄だけでできているので、どんなに使い込んでも鉄以外の物質は出てこないですし、塗装などが剥がれてくることもありません。日本は食材の安心安全については注目が集まるようになりましたが、鍋などの道具の安心安全への関心はまだまだ。一般的な南部鉄器に比べてつくる時間も手間もかかり量産はできませんが、必要とする人のところに少しずつ届けていきたいと思っています」
そう紹介してくれたのは、及源鋳造5代目社長の及川久仁子さん。
国の伝統的工芸品に指定されている岩手県の「南部鉄器」は、産地がふたつあります。ひとつは、江戸時代、南部藩主が愛した「茶の湯道具」を作ることで発展してきた盛岡。もうひとつが、奥州藤原氏が栄えた約900年前に鉄器作りが始まった水沢(奥州市)です。
水沢では、奥州藤原氏滅亡後、同地に残った鋳物師が半農半工の生活を始め、自分たちに必要な「生活の道具」を作ってきました。1852年に創業した及源鋳造もそのひとつです。
そんな及源鋳造は、昨年新ブランド「むぐ」を発表。
取っ手の影がカブトムシの角のように見える鍋、手を掲げてダンスをする鍋など、遊び心のあるデザインが特徴的です。
「むぐは、当社の思想・哲学を表現したもの」と及川さん。そのひとつが「無くなってしまう技術の継承」だと話します。
伝統工芸品である南部鉄器ですが、高度経済成長期には、大量生産に対応できるよう時間も手間もかかる製法は使わず、効率化をすすめる傾向にありました。
しかし、約50年前から及源鋳造とともに製品開発を担当してきた岩手県在住の金属造形家・廣瀬愼さんが「こういう技術は絶対絶やしちゃいけない」と、「はばきがえし」や「おいてこい」と呼ばれるその製法を残してくれたのだそう。
「そうして残してくれた技術があるから、むぐの特徴でもある”おもしろい形”を生み出すことができました」
「”おもしろい”は、アートを愉しむ気持ちにもつながると思います。遊び心を持つ豊かさや、この鍋でどんな料理をつくろうかといった創造の楽しさ、ちょっとゆっくりしようよといったメッセージを伝えたい」と話す及川さん。
2023年3月は、ファクトリーショップがリニューアルして1周年。3月4日から1週間にわたり、自然にやさしい循環型の養鶏生産者さんによるトークや料理実演などを通して、鉄器の良さを紹介するイベントも予定されています。
暮らしにフィットする製品を見つけに、ぜひ出かけてみてください!
(文:佐藤春菜 写真:川代大輔)